「あっ…!」
そんな声が聞こえてきて振り替えると、キョンがかばん片手に呆然と立っていた。
「どうかしたのですか」
「…財布忘れた」
どうやらジュースを買いに行こうと立った所だったらしいキョンは、
かばんの中を何度もかきまわしている。
「僕でよければお貸ししますよ」
古泉の言葉に、キョンの手が止まる。
しかしその話にはすぐには飛びついてこなかった。
「…何か、裏があるんじゃないのか」
「ないですよ。全くの善意です」
はい、と手のひらに乗せられた100円玉。
大きな手のひらにコロリと転がっている。
「…利子は?」
「いりませんよ」
「…借りていいのか」
はい、どうぞと古泉が再び手を差し出す。
じゃあ、と手を伸ばしてきたキョンにあ、と古泉が声をあげた。
「…なんだよ」
「僕も行きます」
「は」
「ジュース、買いに」
連れションならぬ連れ買いですね、と笑う古泉を珍しいなあとキョンは眺めていた。
ガチャン
いつも買うものが一緒なキョンはすぐに目的なものが出てくるボタンを押す。
古泉はといえば、どれにしようか迷っていた。
「何だって一緒だぜ」
「そうなんですけど…いやあ、結構あるものですね」
楽しげにジュースを選ぶ姿に少し違和感を感じた。
「…何かあったのか?」
え、とようやく買ったジュースを手に古泉が振り返る。
「いやその…珍しい、からさ」
「…いえ。僕だってたまにはこういうものを飲みたくなるものですよ」
持っているカートカンを目の高さまであげてにっこり笑うその古泉の顔はやはりいつもと違う気がした。
必死に蓋をあけ、ふとストローがない事に気付いた古泉がキョロキョロしている。
「ここ」
と、自販機の横へと移動してストローを手に古泉を見上げたキョンにあるものが映った。
「お前、それどうしたんだ」
ありがとうございます、と言い掛けてそのストローへと手を伸ばしかけていた古泉の手が止まった。
あの、いえその…と訳の分からない言葉を羅列していたが、キョンが動かないので諦めた様にため息をついた。
「目立ちます?」
「どうしたんだ?」
再び同じ質問を繰り返すキョン。
「はあ…その、殴られました」
「誰に」
「知らない子です…告白してくれたのですが、断ったら」
「バチン!か?」
「いえ、グーでした」
最近の女の子はあなどれないです、と苦笑する古泉にキョンは何だかなきたくなった。
「痛くないのか」
「もう結構平気です」
ズー、ともう空になったと訴えるカートカンをゴミ箱へと捨てる。
二人並んで座っていたベンチへと戻ると古泉が少しうつむいていた。
「冷やしたり、した方がいいんじゃねえの…」
「あ、あの…」
自然と伸びた手。
赤黒くなったその頬に触れれば少し熱をもっていて熱い。
「シップは大げさだよな…おい、古泉。ハンカチ出せ」
「は、はい」
ポケットから清潔そうなハンカチが差し出される。
そこでちょっと待ってろよ、とそのハンカチを握り締めてキョンが走り去って行った。
「はあ…、心配よりも嫉妬して欲しいんですけどね」
ポツリ呟いた古泉の本音は小さなカートカンへと吸い込まれた。
短い…そして分かりにくい。古泉の片思いですよ。キョンは純粋に心配してます。友達として。戻ってきてきっと「何かあったら相談しろよ!」とか言っちゃうんですよ。
相談を聞いてあげる側じゃなくて言わされる側の話を書いてみました。