今も君に恋してる



カタン…。


窓の開く音に続いて、人が部屋に入ってくる音と気配。
おまけに、よっこらしょとかいう掛け声付き。
それでも、部屋の住人セブルス・スネイプは振り返りもしない。

スルリと後ろから首筋へと回される腕。
それでもセブルスは目の前の鍋に夢中。

ギュウと抱きしめて、耳元に囁く。
「愛してるよ…」
低い声をさらに低くして、心を込めてゆっくりと。
甘く相手に伝わる様に。
おまけに耳に軽いキス。

ようやく、セブルスの肩がピクリと反応した。
侵入者シリウスの顔が緩んだのもつかの間、冷たい声が響く。
「邪魔をしないでもらいたい」
振り返りもしないで、鍋をかき回す手も止めないで。


ああ、なんて。


「冷たい!冷たすぎるぜ!!」
わあん!ともう一度抱きなおせば、前に回された腕をピシリと叩かれる。
「邪魔をするなと言っているのが分からんのか」
「だってだって…折角久々に忍んでこれたのに!!」
「貴様の都合を私に押し付けるな」
相変わらず振り返りもせず、鍋をかき回す手も止めない。
きっと大事な薬の、終盤なのだろう。

「待ってる」
「…好きにしろ」

いとも簡単に離れた手。
その瞬間、セブルスがピクリと反応したのをシリウスは見逃さない。
それだけで嬉しい。
それだけで、いつまでも待っていられる。





コトン。
小さな小瓶に入れられた、綺麗な液体。
先ほどまでセブルスが必死に作っていたもの。
ようやく完成したそれに、セブルスは満足げに笑った。


「…ブラック?」
薬も完成したし、片付けも終了した。
これでやっと馬鹿犬の相手が出来るなと、どこかで待っているシリウスを探すが、返事もないし、姿も見えない。
最後に覗いた私室。
セブルスが怒るので、滅多に自分からは入らないのに。
そこにシリウスはいた。
気持ちよさそうにセブルスのベッドにつっぷして眠っていた。

やれやれ、とため息をつきつつ、近づいた。
人の気配には敏感な筈なのに、セブルスが近づいても全く起きる気配はない。
「おい、ブラック。人のベッドで寝るな」
どうせ気付いているのだろう、と声を掛けるが、返事はなし。
本気で眠ってしまっているのかと、その顔を覗きこむ。

近づく顔。
聞こえてくる吐息。
やっぱり動かない体。

「…呆れたやつだ」
ポン、とあまりスプリングの良くない自分のベッドへと腰掛ける。
シリウスは身動きひとつしない。
よほど深く眠っているようだ。
安心出来る地のないシリウスにとって、セブルスのいる場所は唯一の安心出来る場所であって、信用出来る場所だった。

自分と同じ真っ黒な黒髪にそっと手を伸ばした。
「ゆっくり休め」


本当は他人が自分のテリトリに入るのは大嫌いだけど。






えええ?!嘘だろう?!という声が少し遠くから聞こえてきた。
煩いヤツが起きたな…と時間つぶしにやっていたレポートの採点を片付け始めると、バタン!という音と共に、半泣きのシリウスが飛び込んで来た。
「おはよう、ブラック」
「お、おはようじゃねぇよ!セブルス、何で起こしてくんなかったんだよ〜」
「あまりに気持ち良さそうに寝てたので、起こすのも可哀相かと」
「セブルスと一緒の時間が削られる方が可哀相だよ!」
わんわんとプチパニックを起こしているシリウスの髪をぐい、と引っ張る。
わ?!と少し静かになったシリウスに、セブルスはニヤリと笑って囁いた。

「それで…残りの時間はどうするんだ?」

セブルスの薬作りも終わって。
シリウスのお昼寝も済んで。

やっと訪れた2人だけの自由時間。


セブルスの言葉に、一瞬止まるシリウス。
でも、意味を理解すると、蕩けそうに笑った。

「俺だけを見て。俺だけの事を考えて。他のヤツの話をしないで…帰るまでの間でいいから、さ」
「…それは少々ムリな注文だ」
にやけっぱなしのシリウスが、セブルスに近づきながら言った言葉に、否定的な答えを突きつけられて、シリウスの足が止まった。
今にも泣きそうな顔をしているシリウスに気付いたセブルスがまた笑う。
愛しい者を見る瞳で。

残りの数歩はセブルスが埋めた。
腕を回せば抱きしめれる距離に。

「私は…お前がいない間、お前の事を考えなかった日はない」
「セブルス…」
「こんなに時間が経ったのに、あれだけ離れ離れだったのに、それでも私はお前が好きなんだな」

ふわりとセブルスが笑う。
滅多に見られない笑顔。
学生時代に、回りの奴らに羨ましがられた笑顔。

堪らず、ギュウとセブルスを抱きしめた。
「俺も…俺も今でも愛しているよ…」








愛しい人が与えてくれるぬくもりは、幸せになれる。
「…健やかなる時も」
「誓いの言葉か」
「そう。神様じゃなくて、セブルスに誓うよ」

「健やかなる時も」
「病める時も」
間髪入れずに続きを口ずさんだセブルスに、シリウスは驚いた。
「…私も、神ではなく、お前に誓ってやる」
「サンキュ…」



そう
死が二人を別つまで。



ごめんなさい…時間がかかった上に、ラブラブじゃないんじゃなくて?!