君だけでいい。君だけがいい。



ぴちょん…
ぴちょん…


水滴が天井から落ちてくる。
ぴちょん…
ぴちょん…

その音は、周りの壁に反響されて、その空間に鳴り響く。
ぴちょん…



「セブルス…」
ジェームズの口から発せられた、悲しそうな呼び声も。

「…煩い」
それを、跳ね返すセブルスの声も。



ぴちょん…
ぴちょん…

水滴の合間に、空間に響いた…。









「セ〜ブルスッ」
常春男ジェームズが、永久氷結セブルスに声をかけて玉砕する。
7年間続いたそれは、ホグワーツの大広間で見られる年中行事となっていた。

今日ももちろんそうなると思って、周りの生徒達は全く気にする事なく、朝食を取り続けていた。
「…何だ」
「今日のご予定は?」
スープを掬う手を止めないセブルスから、スプーンを奪い、それを睨んできたセブルスにニッコリと笑いかけながら聞いた。
セブルスは、スプーンを奪い返すついでに、頭にゲンコツをひとつ。
そして答える。
「図書館で勉強だ」
ジェームズに『今日の予定』を聞かれた時点で、この予定は破棄されたものだと、分かってはいたが、セブルスもそうそうヤツの思い通りになるのも癪で、毎回の事ながら必死に抵抗だけはしていた。



「…だから、何故、私が貴様のために時間を割かねばならぬのだ!」
「そんな事言いつつ、いつだって付き合ってくれるじゃない。セブルス、優しいから」
「ふっふざけるな!貴様が勝手につき合わせているのだろう!!たまにはこっちの迷惑も考えろ!!その優秀な頭でな!」
とうに朝食も取り終えて、大広間を出て、『今日の予定』図書館に向かう廊下での出来事。
周りの生徒は、やっぱりいつもの事だから、と気にしていない。

厭味を交えた言葉のあと、フンと鼻を鳴らすとまた図書館に歩き出すセブルス。
「…そっか」
その背後から、ボソリと聞こえたジェームズの呟き。
長年の付き合いからか、野生の本能か。
セブルスの背筋に嫌な感じがツーと流れた。
(逃げなければ!)
そう、思った一瞬後、つまり、セブルスが駆け出す一瞬前。
「じゃ、行こっか!!」
と叫んだジェームズが、セブルスを横抱きにして、いつの間にやら手にしていた箒に跨った。
まさに、あっという間の出来事。
ホグワーツの公害指定コンビは、綺麗な青空へと消えていった。



「な、な、何をするんだ!!」
「だって〜セブルスが言ったんじゃない。考えろって。だから僕、考えた!無理矢理でも外に出してしまえば、セブルスは付き合ってくれるってね!」
「な…!」
雄大な青空の下で、言葉をなくすセブルスだった。

「それで…どこ行くんだ?」
やっと諦めたセブルスが、ポツリと聞いてきた。
もう随分とホグワーツから離れてきている。
「ん、ひ・み・つ!」
嬉しそうに、楽しそうに笑うジェームズはそれ以降、何を聞かれても答えなかった。



「は〜い。到着しましたよ!」
やっとセブルスの腕から解放されたセブルスが見たのは、大きな洞窟の入り口。
「…?」
「何だと思う…?」
不思議そうに見上げるセブルスに、ジェームズは自分のマフラーをかけてあげた。
そのマフラーをやっぱり不思議そうに迷惑そうに見つめたセブルスの頭に、ひとつの答えが浮かんだ。
「…鍾乳洞か」
「ピンポーン!さすがセブルス!!」
さ、行くよ!とセブルスの手をしっかり握ったジェームズが、ヒンヤリした洞窟内へと足を進めた…。
セブルスは、何が待っているか知らない。





ぴ…ちょん。

しっかり四角になった岩に座って休憩中。
「それで、ポッター」
「ん?」
「出口は」
「知らない」
「…」



散々セブルスを連れまわした後、そしてセブルスが鍾乳洞を漫喫した頃。
セブルスがもうそろそろ帰ろう、と言い出した。
「ね、セブルス。もう僕たち帰れないよ」
その言葉にセブルスが驚き激怒したのは言うまでもなく。
そんなセブルスをジェームズは慌てる事なく受け止めていて。
「どういう事だ…」
やっと落ち着いたセブルスが聞いたのは。
「この鍾乳洞、分かれ道が多くて迷いやすいんだ。セブルス、もう君は一人じゃ帰れない。僕は、君を帰すつもりがない。だから、僕達帰れない」
ニコニコと笑ったジェームズの顔がいつもと違った事に、セブルスは恐怖を感じた。



そして、その後も随分とうろついて、疲れた、と言ったセブルスの言葉に従い休憩中。
「…く、しゃん!」
「あ、寒い?」
「鍾乳洞だからな…分かっていればもっと厚着をしてきたのだが」
セブルスはグズ、と鼻をならしながら自分の体を小さくしていた。
「セブルス、こっちおいでよ」
「ん?」
「一緒にいたら、寒くないよ」

伸ばされた手のせいか、2人きりのせいか、寒かったせいか。
とにかく、セブルスはジェームズの手をとり、そして、ジェームズに包まれた。
「ね、暖かいでしょ」
「…ふん」
一回り小さいセブルス。
スッポリと腕の中で大人しくしていて。
ジェームズはこの上ない幸せを噛み締めていた。

「ポッター、何故だ」
「何が」
「何故、こんな事をした?」
「…」
「何故だ。私には知る権利があると思うんだが?」
「…好きだから。セブルス、君が好きだからだよ」
す、とそこで顔を上げたセブルスの瞳に、しっかりと自分が映っていたのをジェームズは見た。
「…知っている。けれど、それがこの茶番に繋がるのか?」
「茶番?僕は本気だよ、必死だよ」
「それでどうするというのだ。こんなに寒い洞窟で。食料もなしに。何も考えていないとしか思えないな」
あきれ返った様に、目を逸らしたセブルスに、ジェームズもう誤魔化せないと悟る。
そして、本心を話す事を決めた。
「…このまま、死ぬんだ。セブルス」

「何だと…?」
「だからね、ここで、このまま。こうしてさ、セブルスの体を抱いてさ」
「正気か…」
「もちろん。正気だよ」
再び、ジェームズを見たセブルスの瞳には、怒りが込められていた。
「では、阿呆だ。死んでどうなるというのだ…」
「僕達は、この世で結ばれないから…あの世で、何て間抜けな事は言わないよ。早く生まれ変わりたいんだ。早く、結ばれたいんだ」
「だから阿呆だと言うのだ。生まれ変わったからと言って、男女になる可能性はいくつだ。再び会える可能性はいくつだ。そもそも、人間になるかどうかだって分からないだろう」
「大丈夫、ちゃんと魔法をかけた」
「魔法…?」
「うん、禁断の書に載ってたよ。生まれ変わりで幸せになる方法」
「…それが、これか?」
「そう!さすがセブルス。頭の回転がいいよ」
ニッコリ笑うジェームズの腕を、セブルスは勢いよく振りほどき、立ち上がった。
「セブルス?」
「…私は、帰る」
そう呟くと、ジェームズに背を向けて歩き出す。
これには、ジェームズも驚き、慌てた。
「ま、待ってよ!セブルス!!」
「煩い、ついてくるな」
「駄目だよ!帰れっこないよ!?複雑に入り組んだ洞窟なんだよ?セブルス、道覚えてないでしょう?」
「確かに覚えていないし、どっちに行けば帰れるかなんて知らない。けれど、そこで死を待っているよりマシだ」
「…そんなに、僕の事が嫌い?」
その言葉に、ピタリとセブルスの足が止まる。
振り返る事はなかったけれど。
「私は、お前が嫌いではない。今の生活だって嫌いではない」
それだけ言うと、再び足を動かし始める。
ジェームズは、見失うまいと、再び追いかけ始める。
セブルスの言葉の意味を考えながら。





随分歩いた。
どこをどう歩いているかなんて全く検討がつかない。
二股に分かれている道を、右に回ってみた。
そこで、後ろからバシャバシャと走ってくる音が聞こえた。今まで、大人しく後ろをついて歩いていたジェームズがセブルスを追い越す音だった。
前に立ちふさがるジェームズに、セブルスはニヤリと笑いかける。
「私の勝ちの様だな、ポッター」
セブルスの正面に、ジェームズの背後に。
明るい外の世界が見えていた。
「セブルス…どうしても?」
「ああ」
「愛してるんだ…セブルス…」
「ああ」
「君は、このまま離れ離れになってしまっても平気なんだね?」
「卒業後の話か」
「そう…」
バツの悪そうな顔を思わずセブルスから背ける。
「貴様は、逃げてはいけないのではないのか?私は、やりたい事がまだある。思う存分この世を漫喫したら、この茶番につきあってやろう」
「…それは、出来ないんだ」
「何故だ。臆したか」
「違う!…この魔法は、1回しか挑戦出来ないんだ。そういう…決まりなんだ」
「ふん、なるほどな。それで必死にそこで通せんぼしているのか」
コクリ、と頷いた頭は、下を向いた所で止まった。
「セブルス…弱虫だって笑っていいよ。僕は…僕は、怖くて仕方がないんだ。君を失う事が。僕の知らない君の生活が始まってしまう事が。ずっと、ずっと一緒にいたいんだよ。
でも、それはもう…」
「ああ。叶う事のない願いだな」

パシャ。
数歩近づいてきたジェームズが、セブルスの細い体を抱きしめる。
「セブルスは、平気なんだね…?」
「私は信じている」
「?」
「貴様の気持ちを信じている。だから、この先一人で過ごす人生が待っていたとしても平気だ」
「セ…ブルス」
体を少し離して、顔を覗こうとしたら、今度はセブルスが抱きついてきた。
真っ赤になっている顔を見られない様にしているらしく、顔をジェームズに押し付ける様にして。
「そ、それに!これ以上願ったら罰が下る…私はもう十分幸せにしてもらった。来世など、なくてもいい位にな」
「セブルスは欲がないね…もっともっと幸せにしてあげたかったのに」
「では、願っていろ」
やっと顔を上げたセブルス瞳は、強い意志を持っていた。
「来世でも、会える様に。今度は私が女に生まれてくる様に。そして、結ばれる様にな」
「信じる者は…ってやつ?」
「そうだ。本物なら、魔法など使わなくても願いは叶うだろう」
に、と笑うと手を出してきた。
ジェームズも笑って、その手を握り返す。

「さぁ、帰ろう!」



光の中へ。
2人を待っているものが永遠の別れだとしても。



いつもお世話になっている和泉さんへお礼のSS…あれ…?あれれ!?確か、切なく甘い話を書こうとしていた筈だったのに!何シリアス崩れな話書いてるんだろう!?
しかもなんつう中途半端な…ガ〜!話がうすっぺれぇ〜!!…でも、押し付けます。貰ってくださいv返品不可ですが、焼却可です(笑)いつもありがとうございますvv