僕だけが知っている




人が集まる所には、噂が付き物。
それは、時がたてば伝説となる場合もある。

ずっとずっと語り継がれる、当人達の思い出。
ずっとずっと語り継がれる、真実または疑惑。


それは、喜び?
それは、悲しみ?

それを知るのは、本人のみ。





「ねぇねぇ。知ってる?」
そんなフレーズが毎日飛び交う情報交流会の場、朝食時の大広間。
いつもはそんな事気にしないで、ロンやハーマイオニーと現実的な話で盛り上がるハリーなのだけれど。
何気に耳に飛び込んできた。

「ホグワーツにいる間にその人も知らないその人の事を見つけたら、運命の人なんだって!」
「え〜何それ、ストーカー?ていうか恋人なら当たり前ってカンジ?」
「好きになる前って事じゃないの?」

今回の噂は、あまり興味をひくものではなかったらしく、女の子達の甲高い声はもう違う話題に移ってしまっている。
けれど、ハリーの心に残ったその噂。
その伝説。
何だかとっても気になって、ぼんやりとしていたら教授席の一部にピントがあった。
いつもいつも、眉間にシワを寄せて不機嫌そうな顔をしている、その薬学教授は。

とてもとても珍しい事に、シワを消して。
フォークを止めて。
何かに驚いた様に目を見開いていた。
次第に、フォークが重力に従い、そして小さくカチャンとなる皿。
その音で我に返ったスネイプだったけれど。
ハリーの心に、さっきの噂と同じ位心に残った表情だった。





「おはよう!今日も美人だね、セブルス!」
「そういう貴様は今日も馬鹿だな、ポッター」
「んもう!ジェームズって呼んでって言ってるのに!!」
ハートを飛ばしまくるジェームズに、それを全て無視して本に向かったままのセブルス。それを遠くから呆れた顔で眺めるシリウスとリーマス。
「スネイプは嫌いだけど…的を得すぎてるから同意しちまうぜ」
「うん、ジェームズはセブルス馬鹿以外の何者でもないよね」

その場から立ち去る事が逃げ出す事の様でイヤなのか、いつもセブルスはジェームズが来ても立ち去ろうとしない。
暫く嫌そうな顔をして。散々言い争って(一方的に)。それでも引かないジェームズにため息を残して席を立つ…のが、いつものパターンだった。

けれど、今日はちょっと違った。
ジェームズが口を開かない。
ニコニコと、セブルスを見つめているだけだった。
「なんだ」
いつもと違うジェームズに、セブルスは怪訝そうに訊ねる。
視線は文面を追ったまま。
「ん〜可愛いなって」
「?」
「真っ直ぐな黒髪も。長い睫毛が黒目がちな瞳にかかってるのも。白い肌に、緑の制服がとてもよく似合ってるし。薬で荒れたその手が…」
永遠に続くかと思われたジェームズのセブルス観察記録は、セブルスの思いがけない一言でピタリと止まる。

「それは私の事か?」

いつもの様に静かな物言いだったけれど、ジェームズの興奮した口調と、手振り、浮かしかけた腰までもが止まった。
「おお、さすがスネイプだ。あのジェームズを止めたぞ」
「愛の力だね…」
相変わらず傍観していた2人が感心した声を上げる。
その声に、少しだけジェームズが動きを取り戻す。

「………知らなかったの?」
ぎぎ、と音がしそうな位ゆっくりとセブルスの方を見たジェームズが見たものは、真剣な顔をしてコックリと頷くセブルス。そして。
「まったく」
キッパリハッキリ言い捨てられた台詞。

暫く静止していたジェームズがプルプルと震えだす。
「駄目だよ、セブルス!!もっとちゃんと自分の事知ってないと!!ああ、だから君はそんなに可愛いんだ!分かってないから、平気でフェロモンを放出しちゃうんだ!!駄目だよ!もっと自覚をもってくれないと、ライバルが増えて増えて…」
大広間に響きまくっていた、ジェームズの切羽詰った声は、ゴツンととても重いものの音で幕を閉じた。
音のした方を見ると、セブルスが顔を真っ赤にして、手にしていた分厚い本を振り下ろしたポーズで止まっていた。
足元には、でっかいタンコブを作ったジェームズが転がっていた。

「あ〜あ〜」
「珍しいパターンだよね」
相変わらずの傍観者。
セブルスが赤い顔をしたまま、そちらをギロリと睨んだ。
「二度とこの馬鹿を私の前に連れてくるな!」
それだけ言うと、そのまま大広間を後にする。
すごい勢いで。


「…ムリな注文つけてったな」
「うん、完璧にムリだね。でも、ジェームズってすごいねぇ」
「ああ、俺達気づかなかったな」
「うん、でも今日やっと分かったよ」

「セブルス・スネイプが可愛い事に」

2つの声がハモった所で、ジェームズがバチっと目を開いた。
「こんな身近に敵はっけぇぇん!!」
「うわあ〜!!」
目の据わったジェームズに、対抗しようと思うものはいなかった。
それが、悪友であろうとも。





その日の夕方。
ハリーは、今朝の事が気になって、いつも避けているスネイプの所へと向かっていた。
会ってどうするかなんて考えてもない。
何を聞けばいいのかも分からない。
でも、気になって仕方がない。

あとひとつ曲がれば…という所で声が聞こえた。
聞き覚えのある声。
それは、スネイプとルーピンだった。

「今朝の噂、笑ったねぇ」
「…貴様の仕業か」
「何の事やら。僕にはサッパリだよ」
「……いつだってそうやって白を切るんだな」
「何が?君とジェームズがあの1件の後、急激に仲良くなってとうとうくっついた事とか?あの1件がきっかけで、君がホグワーツの隠れアイドルになっちゃった事とか?そんな事、誰にも話してないよ」
「い、今言ったではないか!!」
「黒百合の君とか図書室の姫君とか色々呼ばれてたっけ」
「ルーピン!!」

今にも飛びかかろうとするスネイプをまあまあ、とルーピンは片手で制して。
「でもさ、確かにジェームズの見る目は確かだったよ。そして、あの噂だって」
「……ふん」
「僕も、あれから君を見つめてきたんだけどね…『運命の人』には勝てないらしい」
「馬鹿な事ばかり言ってないで、さっさと用件を済ませたらどうだ。薬を取りにきたんだろう。我輩は忙しいのだ」
「…ジェームズの影は、消えないね」

ずっと声だけを聞いていたハリーの耳に、初めて違う音が飛び込んできた。
コツン、という靴の音。
それはきっとスネイプが動いた音。
そして、たっぷりの間。

「…ルーピン、我輩の薬が欲しければその話はしない事だ」
「了解…。でもね、僕は君をまだ見つめ続けるよ。君は僕にとって必要な人だからね」
「我輩の薬が、だろう」
クスッと笑う声。
「まあ、そういう事にしといてあげるよ」
そして、靴の音と、扉の閉まる音。



ハリーはずるずるとその場にへたり込んだ。
沢山の情報が一気になだれ込んできて、熱が出そうだ。
でも。
でも、一番出そうな熱は、スネイプに対して。
「父さんが…伝説を作ったなら、僕はその伝説を消してやる!」

ハリーの瞳に宿った決意。
それは、親譲りの強い意志。





数日後。
「いい加減にしろ、ポッター!!」
「僕は諦めない!」

セブルス・スネイプの後ろを追いかけるポッターの姿が、ホグワーツでの名物になった。



和泉さんとのお約束のブツ。お待たせしました!!ジェスネをリクエストされた筈なのに、ハリスネな気がします…夢かしら?リーマスは好きなので…つい。
良かったら貰って下さい…