△月×日 「あ、れぇ…?」 わいわいと騒がしい朝食風景に、いつもある無愛想な顔を見つけられず、シリウスは落ち着きなく辺りを何度も見回した。 「どしたの、シリウス」 「セブがいないんだよ…」 え?と訊ねたリーマスも振り返って探す。 「本当だ…珍しいね、朝食の時間すら遅刻しない彼が」 「だよなあ…」 ムクムクと膨れ上がる不安感。 食事途中の皿を放置してガタ!と立ち上がる。 「俺、ちょっと探してくる!」 止める暇もあらばこそ。 それだけ言うと、あっという間に大広間を出ていった。 「何事もないといいけど」 ポツリとつぶやいたリーマスの願い。 ほとんどの人間が朝食をとりに大広間にいる時間。 誰も歩いていない廊下を、シリウスは疾走していた。 セブルスに限って、寝坊なんてする訳ない。 だから、きっとどこかにいる筈なのだ、と。 と、いう事は分かっても、セブルスのいる場所など検討がつくはずもなく。 結果、城の中を走り回る事になる。 体力馬鹿のシリウスも疲れを見せ始めた頃。 ポツン…と音がした。 外を見ると、今にも振り出しそうだった鉛色の空からとうとう粒が落ちてき始めた。 「あちゃ〜雨か…」 そう、呟いた時、シリウスは森の入り口に見つけた。 愛しき人の姿。 「セブルス!セブ!」 我を忘れて駆け寄る。 何度も何度も叫びながら。 あと少しで手が届く、という所で、セブルスがまるでスローモーションの様に振り返った。 まるで、血の通っていない人形の様だった。 「セブ…どうしたんだよ?ほら、濡れちゃうぜ、中に戻ろう?」 何かあった事を察知したシリウスが易しく声をかけるが、セブルスはぼんやりしたままだった。 「セブルス…」 そっと触れると、その体がビクリと反応する。 「…ブラック?」 「おう…どうしたんだよ、風邪ひくぜ?」 「そうだな…冷たい雨だ」 「だろ?だから、ほら…」 腕を掴んで、何とか城へと戻そうとするが、その手をセブルスはスルリとかわしてしまう。 「セブ…」 セブルスの顔にはまだ表情が戻らない。 人形の様なセブルスの口が開く。 「…ブラック、いつも私が好きだとぬかしていたな」 「お、おう!」 「ならば、ほかっておいてくれ。今日はお前の相手を出来る気分ではない」 それだけを言うと、ゆっくりと森の中へと消えていった。 自分を好きならほかっておけ、と言われてはシリウスも追いかけるのを躊躇われた。 「あ、シリウス戻ってきた〜ってびしょ濡れじゃん!大丈夫?」 「あ〜、うん」 差し出してもらったタオルで体を拭きながらもボンヤリしているシリウスをリーマスは心配そうに見つめていた。 「セブルス、見つかった?」 「うん…見つけたけど…見失った」 「やっぱり?」 思いがけない言葉に、シリウスの手が止まる。 「やっぱりってどういう事だ?」 「あの後知ったんだけど、セブルス、身内に不幸があったらしいよ」 それで…と納得するシリウス。 「リーマス!タオルいっぱいくれ!」 「はいはい」 付き合いの長いシリウスの猪突猛進型は理解しているリーマス。 止める事も、理由も聞かずにタオルを用意して袋に入れてくれた。 「これ、おまけ」 と渡してくれたのは大きめの傘。 「サンキュ!」 シリウスが再び駆け出していくのを、リーマスは笑って見送った。 バシャバシャ…。 ズボンにいっぱい泥を跳ね返しながらシリウスは森の中を駆けていた。 やっぱりセブルスのいる場所なんて分からなかったけど。 本能だけで。 愛しい人を見つける為に。 随分走った頃、一本の木にもたれかかってうずくまっているセブルスを見つけた。 バシャ、と足音を立てながら近寄ると、またゆっくりと動いた。 「…ブラックか」 「風邪、ひくぜ」 ふ、とセブルスが笑った気がした。 「ほおっておいてくれと言っただろう。それとも、私が好きだというのは嘘か」 「もちろん真実さ。だからこそ、ほかっておけなかった」 それに…と続けながらさらに近寄る。 リーマスが持たせてくれた大きめの傘で雨がかからない様にすると、タオルでゴシゴシと拭き始めた。 「干渉はしないさ」 「…今、してる事はなんだ。目の前にこんなデカイ人間がいると落ち着かん。早くどこかへ消えてくれ」 「それはムリな相談だな…こんな冷たくなった人をほかっていけるほど、俺はヒデェ奴じゃねぇよ」 頭の上にポン、と乗せたタオルを煩そうに払いのけると、セブルスは立ち上がる。 「どこに行くんだ?」 「お前には関係ない」 振り返りもしないで歩き出すセブルスをシリウスもまたそれ以上きかないでついて行った。 「…どこまでついてくるんだ!」 暫く歩いた後、我慢が出来なくなった様にセブルスが振り返り叫んだ。 「だって、俺心配なんだよ」 ぬけぬけと言うシリウスに、セブルスは怒りのあまりに震えていた。 「頼むから…ほかっておいてくれ…」 「そうだなあ、今日が雨じゃなかったら良かったのにな」 「雨がいい…。天も泣いてくれている様で嬉しい…。雨が慰めてくれる気がして嬉しい…」 とても小さな声で呟かれた本心。 それにむっとしたシリウスは、強引にセブルスを後ろから抱えると、ドスン!と近くの木の根本に座り込んだ。 「な、何をする!」 「見えると落ち着かないんだろ?だからこうしてる。毛布だと思えよ。気にならないだろう?」 何とか逃げようと腰に巻きついたシリウスの腕を外そうとするが、まるでそこにあったのが自然だという位シッカリガッチリ絡まっていた。 ふう、と諦めた様にため息をつくと、トン、とシリウスの体へともたれかかる。 雨で冷えた体に、人の体温は心地よかった。 暫くすると、シリウスの存在を忘れ、ただその温もりが安心出来て。 セブルスはかなり落ち着く事が出来た。 一方、シリウスは抱きかかえているセブルスのあまりの体温の低さに驚いていた。 早く自分の熱がうつればいいと願った。 早くここから出て、暖かい城へと戻らなくてはと考えた。 けれど、まずはセブルスが落ち着かないと。 セブルスが戻る意志を持たないと。 それまではこうして自分が守っていようと誓った。 シリウスが感じるセブルスの冷たさがかなり緩和されてきた頃、少しセブルスが重くなってきている感覚を覚えた。 おそらく、セブルスが眠り始めているのだろう。 完全に眠ったら、城に戻ろう。 そう考えているシリウスの耳に届いた言葉。 「大好きだったんだ…」 ええっと思わずセブルスを覗き込むと、セブルスはすっかり夢の住人。 やれやれとセブルスを抱きかかえると、城へと戻る道を歩き出す。 △月●日 「セブルス!元気になったんだ!よかったなぁ」 ニコニコと近寄るシリウスに、セブルスはバツが悪そうに目を逸らした。 「セ〜ッブ!」 ギュ、と後ろから抱きかかえる。 今度は暖かいセブルスの体。 「ななな、何をする!!」 ジタバタと暴れるセブルスを離す事なく、シリウスはウットリと目を閉じる。 「だって、俺、セブルスの専属毛布だから」 「もう寒くない!必要ない!」 「あ、ヒデェ〜折角両思いになれたダーリンにそれはないんじゃない?」 グスン、といじける振りをしたシリウスを、セブルスは捕まったまま見上げる。 「両思い?」 「セブッ…!その体勢反則…!押し倒したくなる!」 バコ! 器用に後ろの人間を殴り倒すと、うずくまっているシリウスの前に仁王立ちして聞き返す。 「何の事だ?」 「だって…セブルス『大好き』って言ってくれたじゃん…」 半泣きで訴えるシリウスに、心当たりが見つかったセブルスはため息。 「馬鹿者。あれはお前ではなく、亡くなった叔母への言葉だ」 勘違いの訂正をすると、もう用はない、とばかりにそこを立ち去るセブルス。 何も変わっていない。 変わらない。 だから、シリウスの行動も変わらない。 「セブルス、愛してるよ」 「馬鹿者」 変わらない日常。 「ああいうのも、愛だよね」 「シリウス、毎日幸せそうだよね」 あんまりあなたがすきなので あなたがげんきなだけでうれしいのです。 |
お終いです…この回書いてて思った事。連載にした意味あったのか…?!この回だけでいい気がします…うぇん!
付き合って下さった方々ありがとうございましたvv