私とわたし。




「…どうした」

 永泉の頭上から、抑揚のない声が降りてきた。思わず上を見上げたけれど、

見たりしなくても分かっていた。

「…泰明殿…」

 そこにいたのは、やはり泰明で。

 いつもの様に静かな瞳で永泉を見下ろしている。そして、同じ質問をする筈もなく。

ただ、ジッと永泉を見下ろしていた。

「いえ。別に…何でもないのです」

「…何でもない人間が、同じ場所で二刻も過ごすのか?」

「え?そんなに…経ってましたか…」

 はぁ、とため息を思わず吐いてしまい、しまった、と思った時にはすでに遅く。

永泉の体は、泰明の腕の中にすっぽりと納まっていた。

「あ、あの…」

 離してもらおうと、体をよじってみるのだけれど。

泰明はそれをものともせずにしっかりと永泉の体を抱きしめていた。

「…帝と会ったのか?」

「…はい」

 何もかもお見通しの泰明に、苦笑しながらも素直に肯定する。

これで、泰明の機嫌が悪くなる事も分かっていたけれど、嘘をつくと余計に悪くなる事も分かっていたから。

「何か言われたのか?」

「いいえ…特には。いつもの様に…」

 そこで、ハッと口を噤む。

おそるおそる泰明の表情を覗いてみるのだけれど、いつもと同じ無表情で。

 でも、分かる。

 傷付けてしまったのが。

 怒らせてしまったのが。

「あ…あの。泰明殿…」

 ギュウと泰明の抱きしめている腕に力が入る。

 そして、小さく囁いた。永泉の耳元で。



「誰にも、渡したくない…」



 小さな小さな声だったけれど。永泉はそれだけで嬉しくて。

 知らず、にこりと微笑んでいた…。



 この私は、どの私?

 泰明殿を好きな私?

 帝に囚われている私?

 分からない。

 分かれない…分かりたくない…。







 こんな私は知らない。

 私にも感情があったなんて知らない。

 この感情は何?

 渡したくない。

 渡せない…離れられない。

 師は、こんな事、教えてくれなかった。



 この私は、偽者?







 わたし、は誰?

 私、は何?



 答えは、いつまで経っても出ない。

 二人、このまま。世界から隔離されてしまいたい。抱きしめる事で、それが叶うのなら。

 こうして、

 いつまでも、抱きしめていたい。

 抱かれて、いたい…。







大昔に書いたハルトキ玄武カプ。ちなみに帝は永泉喰っちゃってます(笑)んもう泰明と出会う前から!
永泉は2人の間で揺れている…というのがマイブームだった…そらもう、妄想しまくったさ!(笑)